飲食店が不足している郊外に住む憂鬱

田園都市線沿線に住んでいたことがあります。横浜と川崎の北部を横断し、東京の渋谷まで至る東急線ですが、私が住んでいたのは、そのうちの川崎の部分に位置する町です。閑静で上品な住宅街が広がる町なので、住環境は悪くなかったと思います。ただし、ファミリーで住むのなら、という条件つきですが…。どうしてこんな但し書きをつけるかというか、その町には一人暮らし向けの飲食店が見事なまでに欠如していたのです。何か食べようと思っても、ファミレスやファストフード店しかありません。飲み屋はちょこちょことありましたが、私は酒を嗜みませので入りづらい。牛丼屋ならありましたが、あれは忙しい時に利用する便利なチェーン店であって、何も地元で食べる必要はありません。唯一まともに食わせる個人店としてはとんかつ屋がありまして、そこはなかなかのお気に入りでしたが、とんかつしかレパートリーにない町というのは味気ないものです。そのような外食の選択肢が著しく不足している町に、私は数年ものあいだ住みつづけたのです。そして、その結果、すっかり料理上手になってしまいました。料理屋さんがないなら自分で作ればいいじゃない。との思いから、一人暮らしのくせに毎日せっせと料理に勤しんでいました。しかし、休日にスパイスを挽くことからはじめてカレーを作ったりするときなどは、さすがに虚しさがこみ上げてきて、この町から脱出しなければと強く思ったものです。そして念願かなって、今ではやたらと一人飯の飲食店が充実している荻窪という町に住んでいます。この町に越してきてからというもの、料理をつくるのが馬鹿らしくなってしまい、毎日のように外食しています。おかげで体重が増える一方ですが、他方では、いろいろなものを食べることができる食生活の充実にはいたく感激しており、私は当分この町から離れられないだろうなと感じています。いつか私も結婚して家庭を持つ日が来るでしょうが、そうなってもこの町に住んでいるような気がします。間違っても、飲食店が全然ない郊外の町には住まないことでしょう。

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